キッチンカーの売上について、全国の平均を示す公的な統計は見つかりませんでした。 飲食店営業の許可の統計(衛生行政報告例)にも、自動車を分けた項目は見当たりませんでした。
公開されているデータは、地域も条件も違う次の三つです。
- 大網白里市(千葉県)が公園で行った社会実験の実績。売上の大半は露店のもので、キッチンカー1台の売上の目安には使えない
- シンクロ・フードがモビマルの登録事業者に聞いた調査(回答59件)。イベントでの1日の最高売上は「20万〜30万円」の回答が最も多い
- 中小企業診断協会の報告書の収支モデル。平日は客数60人、客単価800円で1日48,000円という想定
同じ「1日の売上」でも、露店を含む実績、最高額の回答、計画上の想定と、数字の性質が違います。 以下では調査の条件とあわせて並べ、出店料の方式で手元に残る額がどう変わるかを計算します。
公開されている売上のデータ
| 資料 | 対象と条件 | 主な数値 | 数値の性質 |
|---|---|---|---|
| 大網白里市「小中池公園における移動販売車(キッチンカー)活用社会実験 報告書」(2023年7月) | 千葉県大網白里市の公園。2023年4月29日〜5月7日。キッチンカーは3社が登録し2社が出店(1社は悪天候で出店なし)、ほかに露店。延べ30出店 | 売上合計697,100円。表の平均売上22,434円は、出店のあった5日の平均売上を単純に平均した値。平日5,340円(露店のみの1日)、休日26,816円 | 実績(大半が露店) |
| シンクロ・フード「キッチンカー事業者のイベント売上最高額は?」(2025年3月25日) | モビマルの登録事業者、回答59件。2025年3月4〜12日のインターネット調査 | イベント1日1台の最高売上は、20万〜30万円が22.0%、5万〜10万円が20.3%、5万円以下が16.9%、30万円以上が計18.7% | アンケートの回答(最高額) |
| 中小企業診断協会「キッチンカー(移動販売車)の開業・運営支援マニュアル 報告書」(2023年3月) | 収支計画のモデル | 平日(スーパーの駐車場)は客数60人、客単価800円。土日祝(イベント)は客数100人、客単価1,000円 | 想定値 |
| 同じ報告書の事例紹介 | シンガポール料理の1事業者 | 平日は1日2万〜3万円、土日(イベント)は5万〜10万円程度 | 1事業者の例 |
大網白里市の社会実験
大網白里市が、小中池公園でキッチンカーを活用する社会実験として出店者を募り、売上を記録したものです。 売上の合計は697,100円、販売数は1,746個です。 報告書の売上の表は平均売上を22,434円としていますが、これは出店のあった5日それぞれの平均売上(その日の売上額 ÷ 出店数)を、単純に平均した値です。 売上の合計を延べ30出店で割った値(約23,237円)ではありません。 報告書の本文は、期間中の平均を「22,000円程度」と書いています。
この数字は、キッチンカー1台の売上の目安には使えません。 報告書の出店事業者の一覧によると、実際に出店したキッチンカーは2社で、ほかに露店が出ていました(登録した3社のうち1社は悪天候で出店なし)。 一覧と日ごとの出店数を突き合わせると、露店は1日に5出店として数えられているとみられ、延べ30出店のうちキッチンカーは5出店です(報告書に内訳の記載はなく、この記事での計算です)。 平日に出店があったのは5月1日だけで、この日に出たのは露店(唐揚げ)だけでした。
報告書から読み取れるのは、売上の傾向です。 1出店あたりの売上は休日が26,816円、平日が5,340円で、休日が平日の約5倍でした。 雨や強風の日は出店が取りやめになり、売上は0円でした。 期間はゴールデンウィークの9日間だけで、ほかの季節や、オフィス街や商業施設のような場所の傾向もわかりません。
シンクロ・フードの事業者調査
マッチングサービスのモビマルを運営するシンクロ・フードが、登録している事業者に聞いた調査です。 回答は59件で、聞いているのはイベントでの1日の最高売上です。 平均の売上ではないので、「多くの事業者がイベントで1日20万円以上売る」とは読めません。
同じ調査では、月の出店日数も聞いています。 月20日以上が30.5%、月10〜20日未満が22.0%、月5〜10日未満が28.8%でした。 回答した事業者の出店日数には幅があり、売上の回答もこの違いを含んだものです。
中小企業診断協会の収支モデル
中小企業診断協会の報告書は、開業を支援するためのマニュアルで、収支計画のモデルを載せています。 モデルの数値は、平日と土日祝の客数と客単価のほか、原価率30%、出店料は平日1日3,000円と土日祝1日5,000円、その他の経費は売上の15%です。 営業日は平日193日と土日祝120日とし、稼働率を70%としています。 いずれも計画を立てるための想定値で、実際の事業者の平均ではありません。
モデルの数値から1日の売上を計算すると、平日は48,000円(60人×800円)、土日祝は100,000円(100人×1,000円)です。 大網白里市の社会実験の平日の値(5,340円)は露店だけの数字なので、このモデルとは比べられません。 モデルの48,000円は計画上の想定で、出店先の条件によって実際の売上はこれより大きくも小さくもなります。
出店料の方式で手元に残る額はどう変わるか
出店料を定額で払うか、売上の%で払うかによって、同じ売上でも手元に残る額が変わります。 次の前提で計算しました。
- 原価率:30%(中小企業診断協会のモデル)
- 定額の出店料:1日3,000円(同じモデルの平日の出店料)
- 売上の%の出店料:売上の15%(同じ報告書が出店料の目安として挙げる10〜20%の中間)
- 手元に残る額:1日の売上 − 原材料費 − 出店料。燃料費、容器代、車両の費用、税金などは引いていない
| 1日の売上 | 原材料費 | 定額3,000円の場合の手元の額 | 売上の15%の場合の出店料 | 売上の15%の場合の手元の額 |
|---|---|---|---|---|
| 0円(雨天で売れなかった日) | 0円 | −3,000円 | 0円 | 0円 |
| 5,340円(売上が少ない日の例。大網白里市の平日の露店の値) | 1,602円 | 738円 | 801円 | 2,937円 |
| 20,000円 | 6,000円 | 11,000円 | 3,000円 | 11,000円 |
| 48,000円(診断協会のモデルの平日) | 14,400円 | 30,600円 | 7,200円 | 26,400円 |
二つの方式の出店料が同じになるのは、1日の売上が20,000円のときです(3,000円 ÷ 15% = 20,000円)。 売上が20,000円より少ない日は売上の%のほうが、多い日は定額のほうが、手元に残る額が多くなります。
初めて出る場所や、天候に左右される屋外のイベントのように売上が読めない場所では、売上の%の方式は売上が少ない日の負担が小さく済みます。 売上が安定して見込める場所では、定額の方式のほうが手元に残る額が多くなります。 売上が0円の日の行は、雨天でも定額の出店料を払う決まりの場合です。 雨天で中止になったときに出店料がかからない出店先もあるので、要項で確かめます。
道の駅 あいの土山(滋賀県甲賀市)のように、定額と売上の%を組み合わせた方式もあります。 募集要項(2026年4月1日改定)では、出店料は当日の売上の10%で、最低3,000円です。 売上が30,000円までの日は3,000円、30,000円を超えた日は売上の全体に10%を掛けた額になります。 組み合わせの方式は、要項でどちらの額をどう適用するかを確かめてから計算します。
収支シミュレーター
客単価、1日の販売数、月の出店日数、出店料の方式と金額、原価率、そのほかの月の経費、初期費用を入れると、月の売上と手元に残る額、初期費用を回収できるまでの月数を計算します。 入力欄の初期値は、中小企業診断協会の収支モデルの想定値(平日にスーパーの駐車場で出店する場合の客数60人、客単価800円など)です。実際の事業者の平均ではないので、自分の出店先と売上の見込みに置き換えて使ってください。計算式はシミュレーターの下に載せています。
収支シミュレーター
数字を変えると、下の結果がすぐに変わります。初期値と、その出どころは部品の下に載せています。
| 月の売上 | — |
|---|---|
| 月の出店料 | — |
| 原価 | — |
| そのほかの月の経費 | — |
| 手元に残る額(月)所得税、住民税などの税金と、国民健康保険、国民年金などの社会保険料を引く前 | — |
| 初期費用を回収できるまでの月数手元に残る額がこのまま続いた場合 | — |
計算式
- 月の売上 = 客単価 × 1日の販売数 × 月の出店日数
- 月の出店料 = 1日あたりの出店料 × 月の出店日数(定額の場合)、または 月の売上 × 出店料の% ÷ 100(売上に対する%の場合)
- 原価 = 月の売上 × 原価率 ÷ 100
- 手元に残る額 = 月の売上 − 月の出店料 − 原価 − そのほかの月の経費(所得税、住民税、事業税、消費税と、国民健康保険や国民年金などの社会保険料を引く前の額)
- 初期費用を回収できるまでの月数 = 初期費用 ÷ 手元に残る額(小数点以下を切り上げ)。手元に残る額が0円以下なら、回収できないと表示します
初期値の出どころ
- 客単価 800円: 中小企業診断協会の報告書(令和5年3月)の収支計画のモデルで、平日にスーパーの駐車場で出店する場合の客単価800円(モデル上の想定値)。土日祝のイベントは1,000円としている [1]
- 1日の販売数 60個: 中小企業診断協会のモデルの、平日にスーパーの駐車場で出店する場合の1日の客数60人(モデル上の想定値。土日祝のイベントは100人としている)。客単価や出店料と同じモデルの値にそろえた [1]
- 月の出店日数 18日: 中小企業診断協会のモデルの営業日(平日193日と土日祝120日)に、天候などを見込んだ稼働率70%を掛けた年219日を、12か月で割って丸めた値 [1]
- 出店料(1日あたりの定額) 3,000円: 中小企業診断協会のモデルの平日の出店料(1日3,000円)。同じ報告書は、出店料の目安を定額なら1日3,000円〜数万円、売上に対する割合なら10〜20%としている [1]
- 出店料(売上に対する%) 15%: 出店料を売上の%で払う方式を選んだときの初期値。中小企業診断協会の報告書にある目安(売上の10〜20%)の中間 [1]
- 原価率 30%: 中小企業診断協会のモデルの原価率30%(一般的な飲食店の原価率を使った、とある) [1]
- そのほかの月の経費 130,000円: 中小企業診断協会のモデルは、燃料代、使い捨て容器、PL保険料、水道光熱費、広告宣伝費、通信費を「その他経費」として売上の15%で見ている。初期値の売上(月864,000円)の15%を1万円単位に丸めた。同じモデルで別に数えている車両の維持費(自動車税、自動車保険、車検、駐車場)、仕込み場所の家賃、人件費は含まない [1]
- 初期費用 4,500,000円: 中小企業診断協会のモデルの初期投資額4,500千円(中古のキッチンカーの購入費を含む) [1]
※初期値はすべて、中小企業診断協会の報告書の収支計画のモデルで置いた想定値(平日にスーパーの駐車場で出店する場合)で、実際の事業者の平均ではありません。自分の出店先と売上の見込みに置き換えて使ってください。
出典(確認日 2026.10.13)
手元に残る額は、所得税や住民税、国民健康保険などを引く前の額です。 初期費用の内訳は「開業費用シミュレーター」で、車両、設備、許可に分けて試算できます。
売上の見込みを立てるときに確かめること
シミュレーターに入れる数字は、次の点を確かめてから決めます。
- 出店先の種類:平日のオフィス街、休日のイベント、公園など、売上の水準は出店先ごとに違う
- 平日と休日の差:大網白里市の社会実験(露店を含む)では、休日の1出店あたりの売上は平日の約5倍だった
- 天候:屋外では、雨や強風で出店を取りやめ、売上が0円になる日がある
- 月の出店日数:シンクロ・フードの調査でも、月5日から20日以上まで分かれている
- 出店料の方式:定額か売上の%か(出店先の種類と出店料の例は「キッチンカーの出店場所の探し方」、マッチングサービスの料金は「出店場所のマッチングサービスの比較」)
- 決済手数料:キャッシュレス決済の売上には、決済サービスの手数料がかかる。率はサービスと決済の種類で違う(「キッチンカーの決済端末の選び方」)
主催者や場所の管理者に、来場者数の見込みや過去の出店台数を聞ければ、1日の販売数を見積もる材料になります。
参考資料
いずれも2026年10月13日に確認